田久保真紀市長を忘れないで 伊東が全国に誇る“逆走する改革の女王”

廃墟と化した街並みを背景に、左手に伊東市長の田久保真紀氏が笑顔で片手を上げており、右手にはたすきをかけた男性候補がマイクを持って立っている。男性候補のたすきには「片桐もとまさ」と書かれている。

群馬県前橋市では、小川晶市長が初の女性市長として脚光を浴び、その手腕?に全国的(変な意味で)な注目が集まっている。一方で、同じく女性市長としてかつて話題をさらった静岡県伊東市の田久保眞紀市長の存在感は、今や遠い昔の霞のようだ。しかし、ご安心めされよ。市長は自らの身を投じ、議会解散という起爆装置を使って、再び世間の注目を一身に集めるための壮大なステージを用意されたのだから。これは、世間から忘れられないための、市長による涙ぐましい努力の物語。我々は最大限の敬意(と皮肉)を込めて、このカオスな市議選という名のエンターテインメントに、心からのエールを贈りたい。

目次

孤高の女王様は健在なり 30人中たった1人の味方と叫ぶ解散の正義

崖っぷち、四面楚歌、孤立無援。どんな言葉も今の田久保市長の状況を表すには生ぬるい。市議会議員選挙の立候補者30人のうち、実に26人が「市長不信任に賛成」と公言する絶望的な状況。まさに現代のジャンヌ・ダルク、あるいは裸の王様か。それでも市長は赤いマイカーで颯爽と応援に駆けつけ、その意気軒高ぶりを見せつけるのだから、その強靭なメンタリティには感服するほかない。この状況で「改革の火を消さない」と高らかに宣言できるポジティブさは、もはや一種の才能であろう。

絶望的状況で輝く唯一の騎士 片桐基至という名の希望

立候補者30人のうち、不信任決議案に「反対」と明言したのは、無所属新人の片桐基至氏、ただ一人。元航空自衛官で、新潟県で市議経験もあるという異色の経歴を持つこの人物こそ、田久保市長が最後の望みを託す騎士(ナイト)である。市長とはメガソーラー反対運動を通じて知り合ったというが、市長の「たった1人自分の考えを貫くってほんとに大変なこと」という言葉は、片桐氏へのエールであると同時に、四方を敵に囲まれた自分自身を鼓舞する呪文のようにも聞こえる。聴衆わずか10人、メディアのカメラだけがやたらと目立つ駅前で繰り広げられるこの光景は、新しい伝説の始まりか、それとも壮大な喜劇の序章か。

「新しい波が必要だ」市長が語る解散の大義名分とその空虚さ

田久保市長は議会解散の理由を「新しい人材が入って新しい街を作っていく。それが必要だ」と説明した。実に聞こえはいい。しかし、その「新しい人材」の筆頭候補が、自分を支持するたった一人の人物というのは、あまりにご都合主義が過ぎるのではないだろうか。市民が望んだのは、市長と議会の対立による市政の停滞ではなく、着実な政策の実行だったはずだ。自身の不信任という現実から目をそらし、「改革」という美名のもとに議会を混乱させた責任を、市長は一体どう取るつもりなのだろうか。「私への賛否はまた問われる」と、失職後の出直し市長選への出馬を匂わせるあたり、まだまだこの劇場を終わらせる気はないらしい。そのバイタリティだけは、賞賛に値するかもしれない。

東大卒エリートも困惑させる 田久保劇場が抱える2つの深刻な問題

この伊東市の混乱劇に、一石を投じる可能性を秘めた人物がいる。無所属新人のシュタインマン信子氏だ。東京大学で博士号を取得し、海外経験も豊富な起業家という、いわゆる「エリート」である。彼女は田久保市長の「利権構造をリセットする改革」という姿勢には一定の理解と共感を示している。しかし、そんな彼女でさえ、現在の田久保市長のやり方には、明確な懸念と距離を置かざるを得ないようだ。それは、田久保市政が抱える根深く、そして致命的な問題を浮き彫りにしている。

理想は美しいが現実が見えていない 1人で変えられない利権の壁

シュタインマン氏は「しがらみと利権ががっつりある中に1人で飛び込んでも変えられない現実は結構あります」と冷静に分析する。これこそ、田久保市長が見ようとしない、あるいは見ないふりをしている現実そのものではないか。総工費42億円の新図書館建設計画を一旦は停止させた手腕は評価されるべきかもしれない。しかし、それは巨大な利権構造の氷山の一角を崩したに過ぎない。議会をすべて敵に回し、市民との対話も拒絶するような独善的なスタイルで、複雑に絡み合った利権の糸を断ち切れるほど、世の中は甘くない。シュタインマン氏の言葉は、理想論だけでは市政を動かせないという、あまりにも当然の現実を市長に突きつけている。

市民の信頼を失う致命的な欠陥 学歴詐称疑惑への説明責任

シュタインマン氏が最も問題視しているのは、市長の政治手法以前の、政治家としての資質そのものである。「学歴詐称疑惑に対し(田久保市長が)市民に説明責任を負うのは当然のことで、そこを負っていないことは私も弁護はできない」。この言葉は重い。疑惑の真偽はさておき、市民から寄せられた疑念に対して、真摯に説明を尽くすのは、公人として最低限の義務である。これを果たさずに「改革」を叫んでも、それは空虚なスローガンにしか聞こえない。市民の気持ちが離れ、議会から不信任を突きつけられた根本的な原因がここにあることを、市長はまだ理解していないのだろうか。それとも、理解した上で無視を決め込んでいるのだろうか。いずれにせよ、市民からの信頼なくして、市政改革など絵に描いた餅に過ぎない。

怒号飛び交うカオスな選挙戦 仁義なき街頭演説バトルが勃発

市長が作り出したこの混乱は、市議選の現場を、政策論争の場から、非難と罵倒が飛び交う戦場へと変えてしまった。市長を追求してきた前市議と、市長に近いとされる新人候補が、街頭演説で火花を散らす。その光景は、さながらB級映画のワンシーンのようだ。市民不在のまま、候補者たちの感情的なぶつかり合いだけが、秋空に虚しく響き渡る。

「理不尽な暴挙だ」反市長派・四宮氏が叫ぶ正論と怒り

疑惑を調査した百条委員会のメンバーであり、市長追及の急先鋒だった前市議の四宮和彦氏は、街頭で「市長が辞職して出直し市長選挙を行なうことで決着がつくのに理不尽にも議会を解散するという暴挙に出た」と、まさに正論で市長を切り捨てる。さらに、「田久保派からデタラメなデマ、陰謀論が撒き散らされている」と、市長サイドのネガティブキャンペーンを糾弾。その舌鋒は鋭く、市長への怒りのボルテージは最高潮に達している。彼の主張は、多くの市民が抱くであろう「なぜ議会が解散されなければならないのか」という素朴な疑問を代弁している。

BGMは演説妨害?録音テープで乱入するシュタインマン選挙カー

四宮氏がヒートアップするその時、まるで計ったかのようなタイミングで、シュタインマン氏の選挙カーが接近する。スピーカーからは、本人のものであろう録音された演説が流れ続ける。四宮氏の「街頭演説中です。マイクを止めてください」という制止も虚しく、選挙カーは音量を下げずに通過していく。これが意図的な妨害だったのか、単なる偶然と思慮の欠如だったのかは定かではない。しかし、この一連の出来事は、現在の伊東市議選の混沌とした状況を象徴している。政策ではなく、感情的な対立と、候補者同士の足の引っ張り合い。これを見て、有権者は何を信じ、誰に一票を投じれば良いというのだろうか。

「世の中面白おかしくしてやろう、みたいな連中」という最高の褒め言葉

この選挙カーの「乱入」に、四宮氏の怒りは頂点に達する。「このような新人たちの無謀な選挙戦。私の街頭演説を妨害するために走ってます」「ただ単に引っ掻き回して世の中面白おかしくしてやろう、みたいな連中を絶対に当選させてはなりません」。この言葉は、新人候補への痛烈な批判であると同時に、田久保市長が作り出したこの状況そのものへの的確な評価と言えるだろう。まさに、市政を「面白おかしく」引っ掻き回している張本人は、田久保市長、あなた自身なのだから。もはや伊東市政は、真面目な議論が成り立つ場ではなくなってしまった。この責任は、あまりにも重い。

伊東市の未来はどっちだ 師走まで続く泥沼劇の結末は2択しかない

10月19日の投開票で、まず市議会の構成が決まる。しかし、それはこの混乱の終わりを意味しない。むしろ、本当の泥沼劇の始まりに過ぎないだろう。田久保市長が望む「7人の味方」が当選する可能性は限りなく低い。つまり、市議選後に待ち受けるシナリオは、ほぼ2つに絞られる。いずれにせよ、伊東市が平穏を取り戻す日は、まだ遠い先のようだ。

シナリオ1 市長強制失職 そして泥沼の出直し市長選へ

最も可能性が高いシナリオは、選挙後の議会で再び不信任決議案が可決され、田久保市長が地方自治法の規定により自動的に失職する、というものだ。市長自身もこれを覚悟し、すでに出直し市長選への再出馬を示唆している。そうなれば、市議選の熱狂も冷めやらぬうちに、再び市長選へと突入することになる。市議選で深まった対立の溝は、市長選でさらに決定的なものとなるだろう。市民は、この終わりの見えない政争に、一体いつまで付き合わされなければならないのか。税金の無駄遣いという批判も免れないだろう。

シナリオ2 奇跡の7人当選 しかし待ち受けるのは更なる機能不全

万が一、億が一の確率で、市長を支持する、あるいは不信任に賛成しない議員が7人以上当選したとしよう。そうなれば、市長は失職を免れる。しかし、それはハッピーエンドを意味しない。議会の過半数は依然として反市長派で占められ、市長が提出する議案はことごとく否決されるだろう。予算も通らず、政策は停滞し、市政は完全に機能不全に陥る。それは、市民生活にとって最も不幸な結末と言えるかもしれない。失職という形で一度リセットする方が、まだしも未来があるのではないか。そう思わせるほど、この選択肢は茨の道である。

結論 田久保市長よ永遠なれ 伊東市を最高のエンタメシティに

さあ、田久保真紀市長。あなたの脚本・監督・主演による壮大な市民不在の劇場型政治は、いよいよクライマックスを迎えようとしています。前橋市の小川市長が正攻法で注目を集める中、あなたは議会解散という禁じ手を使って、見事に世間の視線を伊東市に引き戻しました。その手腕、見事というほかありません。

どうか、このまま最後まで主役を演じきってください。出直し市長選にも出馬し、この混乱をさらに加速させ、伊東市を「日本で最も面白い(面白いとは言っていない)地方自治体」として、その名を全国に轟かせてください。市民の皆様には心から同情申し上げますが、これほどの極上のエンターテインメントを提供してくれる市長は、そうそう現れるものではありません。

我々は、ポップコーンを片手に、この茶番劇、いや、失礼、この壮大な改革の物語がどのような結末を迎えるのか、固唾をのんで見守らせていただきます。頑張れ、田久保市長!あなたの存在を、世間はきっと忘れない。色々な意味で。

目次