我々の「国民皆保険」が静かに蝕まれている
私たちが世界に誇るべき日本の「国民皆保険制度」。誰もが公平に、低額な負担で高度な医療を受けられるこの制度は、まさに日本の「宝」です。しかし今、その宝が制度の抜け穴を利用する者たちによって、静かに、しかし確実に蝕まれようとしています。
先日、ルポライター昭島聡氏による衝撃的なレポートが世に出ました。日本で起業する外国人向けの「経営・管理ビザ」が、本来の目的とはかけ離れた形で悪用され、一部の中国人による「社会保障タダ乗り」の温床となっているというのです。
この記事は、単なる憶測や都市伝説ではありません。中国のSNS上では「500万円で日本の充実した福祉を自由に享受できる」といった情報が公然と拡散されているという、おぞましい現実を突きつけています。
医療の公平性と持続可能性を追求するジャーナリストとして、私はこの問題を断じて見過ごすことはできません。これは、制度の不備という生易しい話ではなく、我々日本国民が真面目に納めてきた保険料と税金が、意図的に「食い物」にされているという深刻な告発です。本記事では、この「経営・管理ビザ」を悪用した医療費不正利用の実態を徹底的に解剖し、その構造的な欠陥と、我々の医療制度が直面する危機について、強く警告を発します。
経営管理ビザとは何か 本来の目的と悪用の実態
この問題の核心に迫る前に、まず「経営・管理ビザ」とは何なのか、その実態を正確に把握する必要があります。制度の建前と、元記事が暴き出す悪用の現実との間には、あまりにも大きな乖離が存在します。
h3 500万円が「通行手形」に変わる制度の歪み
「経営・管理ビザ」は、本来、日本国内で事業の経営や管理に従事する外国人のために設けられた在留資格です。日本経済の活性化や国際競争力の強化に寄与することが期待されています。
しかし、元記事が指摘するように、この制度が「500万円で買える移住の通行手形」と化している実態があります。資本金500万円以上(記事によれば、今後は3000万円以上に引き上げられるとのことですが)を用意し、事業計画書を提出すれば、比較的容易に取得が可能でした。
問題は、その事業の実態です。元記事が示唆するように、実態のない「ペーパー会社」であっても、法人登記さえしてしまえば、制度の建前上は「経営者」として認められてしまう。この甘さが、本来の目的から逸脱した利用を招く第一の入り口となっているのです。
h3 なぜ中国人がこのビザを狙うのか SNSで拡散される甘い誘惑
なぜ、特に中国人の間でこのビザが注目されるのでしょうか。元記事は、中国版SNS「小紅書(RED)」や「微信(WeChat)」での実態に言及しています。そこでは「移住コーディネーター」を名乗る人物が、「日本は医療保障大国だ」「国民健康保険という世界一の制度を、ノウハウを得ることで中国人でも簡単に利用できる」と喧伝しているのです。
中国国内では、日本のような手厚い公的医療福祉制度は存在しません。大病にかかれば、莫大な医療費が自己負担となり、資産を持たない多くの人々が治療を諦めざるを得ないという厳しい現実があります。
だからこそ、彼らにとって日本の社会保障は、喉から手が出るほど魅力的に映るのです。「会社を設立すれば、日本の福祉制度を自由に享受できる」「重い病気になっても医療費の減免措置が受けられる」——。このような情報が日々拡散され、日本への「医療目的の移住」を助長しているのです。これはもはや、単なる移住ではなく、初めから日本の医療制度をターゲットにした、意図的な動きと言わざるを得ません。
医療制度への深刻な影響 悪用がもたらす3つの危機
この「経営・管理ビザ」の悪用は、具体的に我々の医療制度にどのような影響を及ぼすのでしょうか。元記事の考察に基づき、その深刻な危機を3つの側面に分けて明らかにします。
h3 危機1 日本人並みの社会保障が「丸ごと」ついてくる構造的問題
最大の問題は、元記事が「500万円で社長になれば、日本の福祉が丸ごとついてくる」と喝破した、制度設計そのものの甘さです。
経営・管理ビザを取得し、法人を設立すると、たとえ経営者1人のペーパー会社であっても、健康保険(社会保険)への加入が義務付けられます。これは、自営業者が加入する国民健康保険とは異なる点です。
社会保険に加入すれば、当然、日本人と全く同じ給付を受ける権利が発生します。医療費の自己負担は原則3割(年齢・所得による)となり、世界最高水準の医療サービスを安価に享受できるのです。さらに、厚生年金保険にも加入義務があり、将来的には老齢厚生年金の受給権まで発生します。
事業の実態が伴わないにもかかわらず、わずかな「投資」で、日本国民が長年築き上げてきた社会保障システムへの「フリーパス」が与えられてしまう。この構造こそが、悪用を生む根本的な原因です。
h3 危機2 家族滞在ビザによるさらなる負担拡大の懸念
問題は本人だけにとどまりません。元記事が強く警鐘を鳴らしている通り、この権利は「家族滞在ビザ」によって、帯同家族にまで容易に拡大します。
経営・管理ビザを持つ本人の扶養家族として、妻や子どもを呼び寄せれば、その家族もまた、日本の手厚い医療保障の対象となります。扶養者の経済力さえ一定以上あれば、家族滞在ビザの取得は「特別な難関はない」と元記事は指摘しています。
考えてみてください。本人がペーパー会社の経営者として社会保険に加入し、その扶養家族として母国から家族を呼び寄せる。もし家族の中に持病を持つ人や、高額な治療を必要とする人がいればどうなるでしょうか。彼らは、ほとんど保険料を負担することなく、日本の高度医療の恩恵だけを享受することが可能になります。
さらに驚くべきことに、家族滞在ビザであっても週28時間までのアルバイトが可能です。扶養の範囲内(年間130万円)で適度に働きながら、医療費の心配なく暮らせる。まさに「いいとこ取り」が制度的に許容されてしまっているのです。
h3 危機3 高額療養費制度の悪用 計画的な不正受給の実態
この問題で最も悪質かつ深刻なのが、「高額療養費制度」の悪用です。日本の医療制度には、医療費の自己負担額が一定の上限を超えた場合、その超過分が払い戻される素晴らしい仕組みがあります。
元記事では、住民税非課税世帯に該当する場合、自己負担上限が月額3万5400円(70歳未満)にまで引き下げられるケースが紹介されています。経営・管理ビザで来日した初年度は、日本での所得がないため、この非課税世帯に該当しやすくなります。
これを悪用すればどうなるか。例えば、母国で高額な手術や治療が必要な人物が、計画的に経営・管理ビザを取得して来日。住民税非課税世帯として高額療養費制度の恩恵を受け、月数万円の負担で数百万円、あるいは数千万円規模の高度医療を受ける。そして、治療が一段落したら、何事もなかったかのように帰国してしまう——。
このような「計画的」な不正受給が、水面下で行われている可能性は否定できません。これはもはや制度の「利用」ではなく、明らかな「詐取」であり、医療財源への直接的な攻撃です。
最大の問題点 税金未納で逃げ得を許す制度の致命的な欠陥
医療サービスという「便益」を享受しながら、国民としての「義務」である納税や保険料負担を免れる。元記事が鋭く指摘する「税金未納」問題こそ、この制度の悪用における最大の闇であり、我々が最も怒りを覚えるべき点です。
h3 元記事が暴く「税金未納」の手口 医療だけ受けて帰国する現実
元記事は、高額な医療サービスを受けた中国人が、その後どうなるかを生々しく描写しています。
前述のように、来日初年度に低所得(あるいは無所得)として高額療養費制度の恩恵を受けたとしても、翌年には前年の所得(仮にペーパー会社でも役員報酬などを計上していれば)に基づき住民税が課されます。
しかし、その課税のタイミングより前に出国してしまえばどうなるでしょうか。本来は出国前に納税を済ませるか、「納税管理人」を選任する必要がありますが、元記事は「そうした手続きを律義に踏む者はごく少数にすぎない」と断じています。
多くの場合、「出国とともに音信不通となり、税金の徴収は事実上、不可能となる」。これこそが「逃げ得」の現実です。彼らは日本の高度医療で健康を取り戻し、その対価として支払うべき税金や、あるいは社会保険料の滞納分を踏み倒したまま、母国へ帰っていくのです。
h3 なぜ徴収が不可能なのか 制度の「性善説」が裏目に出ている
なぜ、このようなことがまかり通るのでしょうか。それは、日本の制度が、良くも悪くも「国内に居住し続けること」を前提とした「性善説」に基づいているからです。
税金の徴収は、基本的には国内の住所地に対して行われます。出国してしまえば、その本人を捕捉し、国際的に税金を取り立てることは極めて困難です。「納税管理人」の制度も、あくまで本人の任意の手続きに依存しており、強制力がありません。
この「性善説」に基づいた制度の脆弱性を、彼らは完全に見抜き、悪用しているのです。我々日本国民が真面目に納税の義務を果たしている一方で、制度の穴を突いて利益だけを享受し、負担から逃れる者がいる。この不公平を、断じて容認することはできません。
h3 ペーパー会社と社会保険 制度の建前と実態の乖離
税金未納問題の根底には、社会保険制度の「建前」の問題もあります。元記事が指摘するように、たとえ実態のないペーパー会社であっても、法人登記さえあれば社会保険の適用事業所となります。
形式上の審査だけで社会保険への加入が認められ、その結果、健康保険証が発行されてしまう。事業の実態や継続性、納税の意思などを厳しく審査する仕組みが、ビザ取得の段階でも、社会保険加入の段階でも、十分に機能していないのです。
この「建前」と「実態」の乖離こそが、悪意ある者たちに付け入る隙を与えています。500万円という「初期投資」で法人を設立し、最小限の保険料(あるいはそれすら滞納し)で、数百万円以上の医療サービスを享受し、最後は税金も踏み倒して帰国する。この「ビジネスモデル」を可能にしているのは、日本の制度そのものの甘さに他なりません。
われわれ国民が失うもの 医療ジャーナリストとしての最終警告
この問題は、単なる「一部の外国人の不正」として片付けられるものではありません。これは、我々の医療制度の根幹を揺るがし、国民全体の負担増につながる、極めて深刻な問題です。医療ジャーナリストとして、ここに最終警告を発します。
h3 不正利用が医療財源を圧迫 私たちの保険料が食い物にされている
国民皆保険制度は、国民全員が保険料を出し合い、支え合うことで成り立っています。高額な医療費がかかる人がいても、皆で負担を分かち合うからこそ、誰もが安心して医療を受けられるのです。
しかし、この「経営・管理ビザ」を悪用した不正利用は、この支え合いの輪にタダ乗りする行為です。保険料や税金をまともに納めない者が、高額な医療サービスだけを享受すれば、その穴埋めは誰がするのでしょうか。
答えは明白です。私たち、真面目に保険料を納めている日本国民です。不正利用が横行すれば、医療財源は圧迫され、将来的には保険料の引き上げや、自己負担割合の増加、受けられる医療サービスの質の低下といった形で、必ず我々に跳ね返ってきます。
h3 制度の信頼性失墜 真面目な外国人が受ける風評被害
もう一つの深刻な懸念は、制度そのものへの信頼失墜です。
このような不正が放置されれば、「外国人に医療制度を食い物にされている」という国民の不満や怒りが高まるのは当然です。
しかし、その結果、日本経済の活性化のために真面目に事業を行い、きちんと納税している多くの外国人経営者や、日本で誠実に暮らしている外国人全体に対して、あらぬ偏見や風評被害が及ぶことを、私は強く懸念します。
一部の不心得者のために、制度全体の信頼が失われ、国際的な人材の受け入れという本来の目的まで阻害されることになれば、それは日本にとって大きな損失です。
h3 今すぐ行うべき対策 資本金引き上げだけでは不十分だ
元記事によれば、「経営・管理ビザ」の要件として、資本金が500万円から3000万円に引き上げられる動きがあるとのことです。これは、安易なビザ取得を防ぐ一定の抑止力にはなるかもしれません。
しかし、断言します。それだけでは、この問題の根本的な解決にはなりません。
本当に高額な医療を受けることを目的としている者にとって、資本金が3000万円に上がったとしても、それは「投資」の範囲内かもしれません。問題の核心は、金額ではなく、事業の実態審査と、社会保障制度との安易な連携、そして税金未納のまま逃げ得ができてしまう制度の穴にあります。
我々が今すぐ求めるべき対策は、以下の通りです。
事業実態の徹底的な審査: ビザの新規申請時および更新時に、ペーパーカンパニーでないか、事業の実態、継続性、納税状況を厳格に審査すること。
社会保険加入審査の厳格化: 法人登記だけで自動的に社会保険に加入させるのではなく、事業の実態を確認してから適用すること。
納税の担保措置: ビザ更新時に、完納証明書の提出を義務化する。また、高額療養費制度を利用した外国人については、出国時の納税状況を厳しくチェックする仕組みを構築すること。
滞納者への厳罰化: 保険料や税金を悪質に滞納したまま帰国した外国人については、ビザの取り消しは当然として、将来的な再入国を厳しく制限する措置が必要です。
まとめ:日本の医療制度を守るために 私たちが声を上げる時
「経営・管理ビザ」を悪用した医療費不正利用と税金未納問題。これは、我々の社会保障制度の根幹に対する重大な挑戦です。
中国のSNSで「日本の医療は簡単に利用できる」と公言され、制度の抜け穴が「ノウハウ」として共有されている現実を、我々はこれ以上、黙って見過ごしてはなりません。
この問題は、単なる行政の不備ではなく、我々国民一人ひとりの生活と将来に直結する問題です。医療の公平性を守り、我々が築き上げてきた国民皆保険制度を持続可能なものとして次世代に引き継ぐために、今こそ国民がこの問題に関心を持ち、制度の穴を早急に塞ぐよう、強く声を上げていく時です。
