あの『エクソシスト』を、テレビドラマで続編にする。そう聞いて名作の看板を借りただけでは?と身構えた人もいるでしょう。悪魔に取りつかれる少女と、救おうとする二人の神父。おなじみの構図だけで、全10話を引っ張れるのか。気になるところです。
しかし、シーズン1が踏み込むのは、悪魔祓いの恐ろしさだけではありません。家族が抱える秘密、救う側の神父たちの迷い、そして1973年の映画とのつながり。物語が進むにつれ、序盤の出来事も違った意味を帯びてきます。
米国での視聴率は苦戦した一方、作品を支持する声もある本作。映画の名に恥じない続編なのか、それとも物語を広げすぎたのか。視聴率や評判、監督・脚本家の狙いを確認しながら、その魅力と弱点を考察します。
【結論】視聴率は苦戦。それでも見直す価値のある続編
名作ホラーをテレビドラマにする。しかも、その名前が『エクソシスト』となれば、期待と同じくらい不安も大きいでしょう。少女が悪魔に取りつかれ、二人の神父が救おうとする。おなじみの展開を長く引き延ばしただけなら、映画で十分だと感じるかもしれません。
しかし、2016年に始まったテレビ版のシーズン1には、映画の恐怖を受け継ぎながら、家族の秘密と神父たちの葛藤を掘り下げようとする意欲があります。
米国の放送視聴者数は伸び悩みました。一方で、批評集約サイトでは一定の評価を得ています。視聴率の低さと、作品の面白さは分けて考える必要があります。
本記事では確認できたデータを整理し、そのうえで作品を考察します。後半の考察には、第5話以降の重要なネタバレを含みます。
【確認できた事実】シーズン1の基本情報とあらすじ
『The Exorcist』シーズン1は、米国FOXで2016年9月23日から12月16日まで放送された全10話のホラードラマです。企画・開発を担ったのはジェレミー・スレイター。制作には20th Century Fox TelevisionとMorgan Creekが関わっています。Morgan Creek Entertainment
舞台は現代のシカゴ。ランス家の母アンジェラは、自宅や娘の様子に異変を感じ、トマス神父に助けを求めます。やがて、悪魔祓いの経験を持つマーカス神父も関わり、一家の問題は教会を巻き込む事態へ発展していきます。
映画を最初から作り直した作品ではない
スレイターはインタビューで、原作小説をそのまま語り直す企画には当初乗り気ではなかったと説明しています。1973年の映画がすでに優れた形で実現しており、同じ物語に挑む意義を見いだせなかったためです。
そこで選んだのが、映画の出来事が存在する世界で、新しい人物の物語を描く方法でした。テレビ版は、映画の存在を消して作り直すリブートではなく、過去を受け継ぐ構想から生まれています。Assignment X
視聴率を検証|平均約191万人という数字の意味
TV Series Finale掲載の視聴率表によると、シーズン1の米国視聴実績は次のとおりです。Google Drive
| 指標 | 第1話 | 最終話 | シーズン平均 |
|---|---|---|---|
| 総視聴者数 | 約285.4万人 | 約174.7万人 | 約191.4万人 |
| 18~49歳層のレーティング | 0.97 | 0.61 | 0.68 |
これは「Live+Same Day」、つまり生放送と当日分の録画視聴を含む集計です。後日の配信や、すべての録画視聴を合計した数字ではありません。また、18~49歳層のレーティングは、全年齢の世帯視聴率とは異なる指標です。tvseriesfinale.com
初回と最終回の総視聴者数を比べると、約38.8%減っています。計算は「(285.4-174.7)÷285.4×100」です。ただし、途中で増えた回もあり、毎週一方的に減り続けたわけではありません。
シーズン1で打ち切られたわけではない
数字からは、初回に集まった視聴者を最後まで維持できなかったことが分かります。しかし、つまらなかったから約4割が脱落した、とまでは断定できません。視聴方法や放送条件など、数字だけでは切り分けられない要素があるためです。
また、本作は2017年5月にシーズン2への更新が発表されています。シリーズが終了したのは2シーズン後です。「シーズン1の低視聴率で即打ち切り」という説明は正確ではありません。tvseriesfinale.com
作品の評判|批評家と一般ユーザーの評価を分ける
調査時点のRotten Tomatoesでは、シーズン1の批評家による肯定率は79%、対象は53件。一般ユーザーの肯定率は91%、評価件数は1,000件以上でした。Rotten Tomatoes
ただし、79%は平均点が79点という意味ではありません。肯定的と分類された批評の割合です。また、ユーザー評価は自ら投稿した人の評価であり、米国の全視聴者を代表する世論調査でもありません。
同サイトの批評家総評は、原典の名作には及ばないとしつつ、緊張感のある物語や恐怖演出、特殊効果を認める内容です。「映画を超えた」と一致して絶賛された作品ではなく、テレビ版としての長所が評価された、と読むのが妥当でしょう。Rotten Tomatoes
高評価の理由と、評価が割れる理由
Metacriticではシーズン1に62点が表示されています。同サイト掲載の批評には、人物造形や沈んだ雰囲気を評価する声がある一方、恐怖表現の配分や、物語を詰め込みすぎる構成への批判も見られます。Metacritic
つまり、悪魔祓いの迫力だけが評価の焦点ではありません。「追いかけたい人物がいるか」「家族の問題に引き込まれるか」「複数の筋がうまく結びつくか」も問われているのです。
なお、こうした集約ページには放送開始時期の批評も含まれます。掲載された評価を、すべて最終話まで見たうえでの採点とみなすことはできません。
スタッフと監督|誰がテレビ版の恐怖を作ったのか
ジェレミー・スレイターの狙い
本作の中心人物は、企画・開発と脚本を担ったスレイターです。製作総指揮にはローリン・ジョーンズ、ルパート・ワイアット、ロイ・リーらも名を連ねています。Rotten Tomatoes
スレイターは、テレビシリーズなら映画より長い時間を家族と過ごせるため、人物への思い入れを深められると説明しています。シーズン1を一冊の長い小説のように捉えていたことも、インタビューで語っています。aleteia.org
毎回別の悪魔を倒して終わる形式ではなく、一家の危機を継続して描く。その方針は、連続ドラマである本作の大きな特徴です。
第1話の監督はルパート・ワイアット
第1話を監督したのは、『猿の惑星:創世記』のルパート・ワイアットです。第2話以降は複数の監督が担当しており、ワイアットが全話を監督したわけではありません。Los Angeles Times
制作会社の各話クレジットから、主な担当を整理すると次のようになります。
| 担当話 | 監督 | 脚本 |
|---|---|---|
| 第1話 | ルパート・ワイアット | ジェレミー・スレイター |
| 第2話 | マイケル・ナンキン | ヘザー・ベルソン |
| 第5話 | ジェイソン・エンスラー | デヴィッド・グリム |
| 第6話 | ジェニファー・パン | ローラ・マークス |
| 第10話 | ジェイソン・エンスラー | ジェレミー・スレイター |
特に注目したいのは、第5話と最終話をエンスラーが担当している点です。物語の重要な転換と締めくくりを、同じ監督が担っています。Morgan Creek Entertainment
キャスト|二人の神父とランス家を支える俳優たち
主な配役は以下のとおりです。TV Series Finale
| 役柄 | 俳優 |
|---|---|
| トマス神父 | アルフォンソ・ヘレラ |
| マーカス神父 | ベン・ダニエルズ |
| アンジェラ・ランス | ジーナ・デイヴィス |
| ヘンリー・ランス | アラン・ラック |
| キャサリン〈キャット〉・ランス | ブリアンヌ・ハウイー |
| ケイシー・ランス | ハンナ・カスルカ |
| ベネット神父 | カート・エジアイワン |
二人の神父は、単に若手とベテランという組み合わせではありません。人々の暮らしに寄り添うトマスと、悪魔との戦いに身を削ってきたマーカス。それぞれの立場や弱さの違いが、物語を動かします。
ランス家にも、娘たちの問題や夫の不調など、悪魔の出現だけでは説明できない悩みがあります。家族と神父、両方の側に抱えるものがある構造です。tvseriesfinale.com
【推測・考察】本当に怖いのは、悪魔が人の弱さを利用すること
ここからは重要なネタバレを含みます。以下は、物語の設定と制作陣の発言を踏まえた考察であり、唯一の正解ではありません。
第5話の正体判明が、母親の言動を変えて見せる
第5話で、アンジェラが映画版の少女リーガン・マクニールの成長した姿だと明かされます。さらに、彼女の母クリスも登場。テレビ版ではシャロン・グレスが演じています。Geena Davis Institute
この仕掛けの意味は、懐かしい人物を出したことだけにはありません。
序盤のアンジェラは、なぜそこまで早く悪魔の存在を疑うのか。その疑問が、彼女自身の過去を知ることで違って見えてきます。ジーナ・デイヴィスも取材で、その早い反応が後から理解できるようになる趣旨を語っています。tvinsider.com
ここからは考察ですが、本作が描いているのは「一度助かった人は、その後ずっと平穏なのか」という問いでしょう。映画の結末で救われた少女にも、その後の人生がある。名前を変えて家庭を築いても、過去を消し去れるとは限らないのです。
アンジェラが娘を守ろうとする行動には、母としての愛情に、自分の過去が家族を危険にさらしたという罪悪感が重なっていると読めます。そのため、悪魔との戦いが家族の歴史の問題へ深まっていきます。
悪魔は、まず理解者のように近づく
本作の「
セールスマン」
を演じたロバート・エメット・ラニーは、役の立場からは、ケイシーを怖がらせることが目的ではなかったと説明しています。抵抗をやめれば素晴らしい関係が待っている、と信じている人物として捉えていました。Bloody Disgusting
この発言を踏まえると、本作の悪魔は、暴力だけで支配する存在ではないと考えられます。相手が欲しがる理解や承認を差し出し、心の中へ入り込もうとする存在です。
恐ろしい相手だと最初から分かれば、人は距離を取れる。しかし、自分だけを認めてくれるように見える相手には、警戒を解いてしまうかもしれません。
この読み方では、悪魔祓いは身体を取り戻す戦いであると同時に、ゆがめられた信頼関係から抜け出す戦いにも見えます。派手な変貌より、その前段階の親密さに注目すると、本作の恐怖が別の形で浮かび上がります。
神父の弱さが、救済を簡単にしない
トマスにもマーカスにも、人を救うための完全な答えはありません。経験が浅くても助けたい人間と、経験があるからこそ傷ついている人間が、協力しようとする。その不完全さがドラマの軸だと考えられます。
もし二人が最初から迷わず、正しい手順を実行するだけなら、悪魔祓いは技術の披露に近づいてしまうでしょう。本作では、救う側も揺らぐからこそ、祈りや決断に重みが生まれます。
特にマーカスは、使命への執着が強さにも危うさにも見える人物です。信仰が強ければ迷わない、という単純な描き方を避けている点が、大人向けの人物劇としての魅力でしょう。
【注意点・別解釈】陰謀を広げたことは、長所にも弱点にもなる
本作は一家の悪魔憑きから、教会や都市を巻き込む陰謀へ物語を広げていきます。Morgan Creek Entertainment
考察として、この拡大には二つの効果があります。一つは、閉じた部屋だけでは持続させにくい連続ドラマに、調査や対立の展開を与えること。もう一つは、家族の身近な恐怖から、観客の関心を遠ざける可能性です。
家の中に何かいる。娘の様子がおかしい。助けを求めても信じてもらえない。そうした小さな不安に引き込まれた人ほど、大きな組織の陰謀へ移ったとき、違う作品になったように感じるかもしれません。
反対に、映画と同じ密室の悪魔祓いを繰り返すだけでは物足りない人には、この広がりが魅力になります。評価の違いは、映画の再現を望むか、世界を広げる続編を望むかによっても生じるでしょう。
作品として評価したいのは、映画の名場面を再利用するだけで終わらず、救われた人間のその後に踏み込んだ点です。ただし、映画の凝縮された恐怖を期待すると、脇筋の多さが気になる可能性はあります。
シーズン1は、映画と同じ怖さを求めるより、過去に傷ついた家族と、不完全な神父たちの物語として向き合うと、その持ち味を捉えやすい作品です。
【不明点】
日本での放送視聴率と、シーズン1単独の制作費は、今回参照した資料では確認できませんでした。また、視聴者が離れた理由や、FOXが更新を決めた各要因の比重も、公開された視聴率だけでは分かりません。
【情報源】
評価の数値は調査時点の表示であり、後日変動する可能性があります。
